山想

ある午後の短い逍遥

投稿日:2021年1月27日 更新日:

 

1月も下旬だというのに雪の降らない日が続いている。

この傾向は2014年の豪雪を境に徐々に顕著になってきた気がする。
「温暖化極まれり」とこれまで何度も書いてきたけれど、一向に極まる気配もないのが恐ろしい限りだ。
と屋内で嘆いているばかりでは心身共に不健康になるばかりなので、午後から野鳥でも狙うつもりでカメラ片手に出掛けてみた。

東沢大橋駐車場に車を停め、まずは美し森方面を目指して林間の遊歩道に入る。
冬枯れた単調な林相が続く道には少しばかり雪が溶け残っている。
左目の端に何かが動くのを感じて目をやると、遠くの木の間越しに鹿の群れが音もなく走り連なって行った。
珍しく警戒の声を発しない流れるような遁走。
無論カメラが追える距離と速さではなかった。

途中から道を外れ、今では笹に覆われて廃道化した歩道に入る。
周囲の落葉松林もひっそりと音もなく佇んでいる。

途中メギの木に日差しが当たっているのを苦労して撮って、すぐ先の斜面を登ると美し森から続く牛首林道に出る。
日陰はかろうじて雪路だ。

しっかりと付いている踏み跡。
それなりの人数が歩いた痕跡。
スノートレックツアーでも入ったのだろうか。
それを辿りながら周囲に目を配る。

突然樅の植林地から大型猛禽が飛び立った。
カメラを構える暇はなかった。

そのまま飛び去る方角だけ確認してゆっくりと林道を辿る。
もう一度遭遇できればという期待に鼓動が高まる。

この辺りの樹間に入ったなという辺りでしばらく立ち止まる。
おおよその見当をつけた梢を注視するも気配もない。
少しづつ視線の範囲を広げて探したけれど影すらも見えない。

諦めて歩き出した途端、ほんの10mぐらいの距離から突然また飛んだ。
そして今度は道沿いではなく、森の奥深くへと入って行ってしまった。

なんという不覚。
切歯扼腕とはこのことを指すのか。

しょんぼりとうなだれて先へ進む。
一昨年の台風被害で崩壊した斜面からは渓谷越しに県立の放牧場が見渡せた。
今日は鈍いブルーグレイに少し霞んでいるようだ。

林道との分岐の縁石に腰掛けて持ってきたポットのお湯を飲む。
今日はこれだけ。

降り着いた渓流にかかる湧水の滝は半ば凍っていた。

つづら折りの歩道を上がると牧場が開ける。
午後の斜光線を浴びて雪の無い牧草地はくすんだイエローオーカー色に鈍く光っている。
かなたに浮かぶ富士の均整のとれた姿はいつも通り見事だ。

有刺鉄線沿いに点在する棘の木々。
ここでも赤い実を付けたメギが目立つ。
実の付き方が見事だったのでここでもしつこく数カットを狙った。

陽がだいぶ傾いて少し気温も下がってきたようだ。
奥秩父の山並みも薄赤く染まり出した。

何かの鳥の群れが一斉に飛び立つ。
望遠で確認したけれど、結局逆光で判別できなかった。

静かな穏やかさを湛えた遅い午後。
心の内は別だとしても、平穏という言葉がふさわしい冬の逍遥であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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